信号待ちで車が止まった途端、真田くんが私に視線を向けた。
「えっと、あの……両方?」
何気なく呟いただけの私の言葉に突っ込んでこられて、訳もわからず慌ててそう答えた。
「ふーん。じゃ、俺が梅ちゃんって呼んでもいいって事?で、彼氏もやっぱり梅ちゃんって呼んでるの?」
探るような声は、私をからかってるようなくすくす笑いも含んでいて、慣れないこの雰囲気にどうしていいのか。
じっと真田くんを見返すしかできない。
そんな自分が情けないけど、ただでさえ男の人と二人きりで車に乗るなんて滅多にないから……心臓が飛び出そうだ。
「あ、あの……えっと、やだ」
「は?」
「えっと、その、ですね。私、梅ちゃんって……なんだか恥ずかしいから」
「なんで?かわいい名前なのに、もったいない」
「かわいい?」
「ああ、『梅ちゃん』が嫌なら『梅』って呼ぼうか?」
「……」
信号が青に変わって、車が動き出したのをいいことに私は黙りこんだ。
真田くんが『梅』と呼んだ声が、あまりにも優しすぎて、息が止まりそうで。
それ以外にも何か特別な感覚が湧き上がってくる。
そんな私とは反対に、余裕の表情の真田くんの口元には笑みが浮かんでいた。
「……ちょっと、むかつく」
そして、私だけがどきどきして緊張している事が、ちょっと悔しい。

