* * *
「あの、本当に、すみません……」
「ん?別にいいよ。特に急ぐわけでもないからこれくらいどうってことない」
「あ、ありがとうございます……」
運転席の真田くんに向かって頭を下げた。
慣れたように車を運転している横顔は正面を見たままで、軽く左手を上げてくれた。
「あの信号を左折すればいいの?」
「あ、はいそうです。よくご存知ですね」
「よくご存知ですよ。っていうか、敬語はやめて欲しいんだけど。
同い年でしょ?梅ちゃん」
軽く笑いながら『梅ちゃん』と強調されて、これまで何度も味わってきた恥ずかしさが溢れてくる。
俯いて、その恥ずかしさ小さくなるのを待つ自分も、これまで何度も経験してきた。
「え?梅ちゃんって呼んじゃだめだった?そう呼ぶのは彼氏だけ、とか?」
「は?いえ、そうじゃないんですけど、梅ちゃんって……」
俯く私に気遣ってくれる真田くんに、申し訳ない気持ちもあるけれど、どう言えばいいんだろう、単に『梅ちゃん』が恥ずかしいんだけど。
「ねえ、『そうじゃない』ってさ、梅ちゃんって呼んじゃだめの答え?
それとも梅ちゃんって呼ぶのは彼氏だけの答え?」

