甘恋集め

「おじさん?」

「俺は、美乃ちゃんが橋本に引き取られる時にジャンケンで負けたんだよ」

「……は?」

「ごめん。ジャンケンなんて、気を悪くしないでほしいんだけど」

小さな声で、後ろめたさを隠そうともせずに、おじさんはつぶやいた。

『ジャンケン』ってあの『ジャンケン』だよね。

負けたっていう意味が……わからない。誰に、なんのために負けたんだろう?

私をはじめ、この部屋のみんな、おじさんの言葉の意味が理解できないようで、視線は全ておじさんに集中している。

「施設にいた美乃ちゃんに一目ぼれだったんだ。本当にかわいい笑顔で笑いかけてくれてこの手をぎゅっと握ってくれて。……その時一緒にいた、先妻との間の俺の娘も美乃ちゃんの事が好きになって。妹にしたいって言い出したんだ。
もう運命だと思って、絶対に引き取りたいと思ったんだけど、そう思ったのは俺だけじゃなかった。子供に恵まれなかった橋本が、親からの愛情に縁のない子供と一緒に暮らそうと施設に来ていて。
あいつも美乃ちゃんに一目ぼれだ」

私の気持ちを気遣うように、優しくゆっくりと言葉を選んでくれた。
おじさんのそんな思いが伝わる口調に気づいてほっこりと温かい気持ちになる。
私が両親と血が繋がっていないことを、特に気をつかわなくてもいいんだけど。

それでも、ほっとするのは確かだな。

「父さん、じゃ、美乃ちゃんは橋本のおじさんとは……」

巧さんの驚いた声が届く。

「ああ、血の繋がりはないんだ」