おじさんは、巧さん達と私達を交互に見やると、悔しそうに息を吐いた。
「全く、俺の気持ちなんて、誰もわかってくれないんだからな」
まるで子供が拗ねるみたいな声に、その場の温度が少し上がる。
おばさんも、くすっと笑った。
「子供が欲しいなら治療を続けてもいいけど、くれぐれも真里さんの体を痛めてまで続けるな。俺にとっては真里さんは大切な娘なんだからな。
それと、跡継ぎの事は気にしなくていい。ここまで大きくなった会社だ、世襲制をずっと続けられるとは思ってないし望んでない」
真里さんと巧さんに向けた言葉は重くて、おじさんの気持ちが今決まったばかりだとは思えない。
社長に就いてからずっと考えていた事なのかもしれないし、大きくなった会社の規模を考えると仕方がないことだとも思える。
私自身が『KH建設』という、おじさんが社長を務める会社に入社し、その内情を知るにつれて感じていた。
血縁だけで社長職を継いでいくことは難しい。
会社の成長がもたらした変化が、おじさんや巧さんにとって良い事なのかはわからないけれど、きっと、巧さんが社長を継いだあとの世代は、社内の人事によって優秀な人材が推されると、そう思う。

