これがサイバー攻撃の最も恐るべき特徴なのだ。攻撃する側の正体は守る側には一切分からず、踏み台を多用すればどこから攻撃が来ているのか、それすら簡単には特定出来ない。
 その結果、サイバー空間防衛隊のあの時の行動はあくまで超法規的措置であったという位置付けになり、日本は再びサイバー攻撃に対して無防備同然の状態に戻った。再発防止のための新しい法律の必要性の議論は始まったが、未だに国会では基本合意にすら至っていない。
 昇二は罪に問われる事はなかったが、結局すぐに自衛隊を除隊した。その昇二に接近してきたのが、あの「令嬢」だった。彼女もまたあの混乱の中で両親を失い、自分も失明した。
 自衛隊がサイバー戦を合法的に行えるようになるまで、自分の財産で私的サイバー戦部隊「電網自衛隊」を作り、自衛隊や警察が手を出せないサイバー攻撃の容疑者を調べ、必要とあれば抹殺する。それが法律的には犯罪であるとしても。
 令嬢は同時に相続したとてつもない遺産を惜しげもなく使って、国会議員にサイバー空間防衛法の制定を働きかけた。昇二は迷う事なく彼女の誘いに応じた。そして元自衛隊員としての格闘能力を活かして、抹殺役を買って出たのだった。