市ヶ谷駐屯地は防衛省の本庁舎と同じ敷地内にあり、陸上、海上、航空3自衛隊がそれぞれの駐屯地を持っている。サイバー空間防衛隊は3自衛隊から選抜された隊員で構成される統合部隊で、自衛隊指揮通信システム隊、通称C4SCという組織の下に設置されている。
 まずは防衛省本庁舎の講堂でサイバー空間防衛隊の発足式があり、統合幕僚長から直々に訓示があった。壇上から統合幕僚長はこう語りかけた。
「本日より、君たちサイバー空間防衛隊が正式に発足する。ただ、知っての通り、サイバー攻撃を我が国に対する武力攻撃と認定する法律は未だ制定されておらず、成立の見通しも立っていない。従って諸君の任務は自衛隊の情報通信のハードウェアおよびネットワークを守る事に当面限定される。万が一の有事の際には、万全の対応が取れるよう、常日頃から任務にはげんでもらいたい」
 それから総勢100人のサイバー空間防衛隊は陸上自衛隊駐屯地の建物の中にある部隊専用のスペースに入った。一フロアが丸ごと部隊の本部にあてられ、最新型のパソコンやメインフレームと呼ばれる大型のコンピューターが並んでいた。
 隊員一人一人に部隊の隊長である吉田という2等陸佐から辞令と、本部内での自分の席が書かれた紙が渡された。昇二はウインドウズOSのパソコン業務の担当になり、山口と言う一回り年上の1等海尉と組む事になった。
 席にたどり着くと、ひげ面の山口1尉が右手を伸ばして握手を求めて来た。昇二は急いで敬礼し、その手を握った。山口はいたずらっぽく笑いながら昇二に言った。
「防衛大から直行のエリートさんと組めるとは光栄だ」
「いえ、とんでもない。自分は新米であります。よろしくご指導願います」
「新米か。それならここの全員がそうだ」
「は?どういう事でありますか?」