みずたま(第3章まで公開)

「見つかんなかった」
俺はそう答えて、情けなく微笑んだ。
無理やり笑顔を作れば、口元がかすかに震えてくる。
「…電話は?」
「かけても出ねぇよ」
自転車から降りて、隣に腰掛ける彼に、俺はそっけなく答えた。
すると、竜介は鞄から携帯電話を取り出して、キーを押し、耳元に当てる。
彼の耳と携帯電話の隙間から、かすかに呼び出し音が聞こえてきた。
「また、彼女かよ…」
八つ当たりで、俺は冷たく皮肉を漏らしていた。
だが、次の瞬間、俺の伏せがちだった目はグッと見開く。
かすかに聞こえてくる確かな声に、俺は釘付けになる。
「あ、姉ちゃん?」と竜介が声をかける時には、俺はもうその携帯を奪っていた。