迷いながらも、スイッチは入った。
部屋に踏み込むだけで、ドアにもたれたまま、広美は近づいてこない。
テーブルとベッドの間にいた俺は、緊迫した空気に耐えられず、すっくと立ち上がる。
そして、彼女の前まで歩いた。
会話も交わさない。
広美の喉は、緊張を表すかのように、大きく動いている。
目さえ合わさない。
俺の視線から逃げるかのように、彼女はうつむき加減で、違う方向を見ている。
まばたきばかりするその瞳は、緊張ととまどいを隠しきれていない。
その姿だった。
かすかに頬を赤らめて、“初めて”を主張するかのような表情。
おびえているかのように、肩を少し上げて、たたずむ姿。
“ヤバイ”と思った。
同時に、抱えていた迷いは、一瞬で消えてしまう。
俺は両腕を上げて、ドアに手をついた。