こんな形で彼女に触れたって、うれしくなんかない。
数秒間、俺はこれを“やっとあきらめられる、いいキッカケができた”と考えていた。
だけど、よこしまな考えも、同時に頭の中に浮かんでくる。
俺は悩んだ結果、意を決したかのように、彼女の名を呼んだ。
広美は、ドアノブに手をかけながら、ゆっくりと振り返る。
「…いいよ。してやるよ」
俺って、ほんと馬鹿じゃね?
…マジ、笑えねぇ。
言葉にした瞬間、後悔があふれてきた。
俺の言葉を聞いて、広美は硬直したまま立ち尽くす。
好きな男との仲を保つために、俺を“初めてを捨てる道具”にしようとする女。
情けないけど、その時の俺は、それをチャンスだと考えてしまったんだ。