「…うん、渡したよ」
今、自分がしていることは、親友を裏切る行為。
だが、そんなことよりも先に、広美への興味と期待が大幅に心を支配していた。
悟の反応をうれしそうに話す彼女と、乗り気にもなれないまま、ただうなずいていく健二。
次第に広美の中にあった緊張はほぐれ、悟の話題を出さなくとも、会話のテンポは弾んでいく。
「姉ちゃん、先に風呂入るよー?」
電話が鳴ってから1時間が過ぎた頃、竜介が廊下から声をかけてきた。
「あ、うん! 先入っててぇ」
広美は携帯電話を口元から離して、返事をする。
「あ、切ろうか?」
健二は気を遣い、控え目に問いかける。