みずたま(第3章まで公開)

「ありがとうね! 悟がここで働く前までは、いつも1人で帰ってたんだぁ。ほら、あたしだけ違う方面だったからさぁ」
シーンと静まり返った夜道、真奈はテクテクと歩く俺に笑いかけてくる。
「確かに、ここって人通りが少ないね」
俺はいつもと違う道に新鮮さを感じながら、キョロキョロと辺りを見回した。
「うん。前に、ここで痴漢に遭った人もいたみたいだから、なんか怖いんだぁ」
「へぇ…」
真奈は話すとき、必ず俺の顔をのぞくようにして、腰を曲げてくる。
俺は見られていることに気づきながらも、前を向いて先を急いでいた。