みずたま(第3章まで公開)

一方、自分の席に戻った健二は、ポケットから携帯電話を取り出して、真剣な顔で画面を眺めていた。
そこに映し出されているのは、広美の名前と番号。
健二は昨日、喫茶店の出口で、広美と別れる時に番号を聞いていた。
「…消したほうが良さそうだな」
そうつぶやいて、アドレスを削除するために親指を動かす。
だが、キーに指を置くところまでできても、強く押すことができなかった。
健二は指を外して、昨日の広美とのひとときを思い返す。
…あんな時間、久しぶりだった。