俺が真奈と歩いている頃、広美の前で呆然としていた健二は、我に返ると落着きを取り戻すために、アイスコーヒーをグイッと飲んだ。
「別に、広美ちゃんに好かれたくもないしね」
一瞬でも心を乱された仕返しにと、健二はわざと皮肉を言う。
「大丈夫だよ。好きになることは、絶対にないから」
普段、俺と口喧嘩をしている広美は、いつものようにシレッと言い返した。
普段、女の子と言い合いをしない健二は、目を丸くした。
そして、プッと吹き出し、表情を崩していく。
急に笑いだす彼を、広美は不思議そうに見上げた。
「サトから聞いてたけど、広美ちゃんって気が強いね。…俺の知り合いに、よく似てる」
健二の目には、広美が今も忘れられない女の子のように見えていた。
そして、向かい合って座るこの空間を、その子と過ごした時間と重ねて見ていた。
目の前で楽しげに笑う健二を見て、広美はムスッとした表情をやめた。
そして、ゆっくりと頬の力を抜き、口元をゆるめていく。