みずたま(第3章まで公開)

健二と理子が通路で話している頃、俺と真奈は室内で、深い沈黙に包まれていた。
テレビから流れる最新曲の宣伝、隣の部屋から聞こえてくる男女の騒ぐ声…。
場違いなほどに、俺たちは一言も交わすことはなく、ただ口の中にたまったつばを、ひたすら呑み込んでいく。
息苦しい空間の中、俺は喉に詰まるたんをなくそうと、口を閉じたまま咳払いをした。
「…あたし」
突然、真奈が口を開いた。
俺はうつむき加減のまま、目だけを彼女に向ける。
「ずっと前から、サトのこと…知ってたの」
真奈は眉間にしわを寄せて、ぎこちない口調で話しだす。