みずたま(第3章まで公開)

茶色い巻き髪には似合わない、沈んだ表情。
「なんで？」
健二は横目で彼女をとらえながら、問いかけた。
「…付き合う前に言ってたじゃん、面倒くさいことが嫌いって」
制服のスカートをぎゅっとつかんで、うつむく理子。
「でも、だからって真奈のこと放っとけないし。振られるのは覚悟してたから…。いいよ、別れても」
彼女は、振られることをわかっていながらも、真奈のために動いていた。
健二は黙って、理子を見つめる。
２人の気まずい空気を破るかのように、ドリンクを運ぶ店員が通り過ぎていく。
店員が残したかすかな風がなくなった頃、健二は再びガムを噛みだした。
「…まだ別れなくてもいいんじゃね？」
彼女から視線を外す彼は、壁に頭をつけて、少し上を向いた。
理子は顔を上げ、彼を見る。
そして、かすかに動く頬を見つめて、目を細めた。
「…うん」
理子のかすれた声は、他の部屋から漏れる歌声にもみ消されていた。