みずたま(第3章まで公開)

「サトくん!」
突然、理子が俺の名を呼ぶ。
「話だけでも、ちゃんと聞いてあげてよ!」
理子は真奈をチラッと見て、俺をきつくにらんでくる。
俺は口をキュッと閉めながら、小さくうなずいた。
すると、理子は健二に声をかけて、部屋を出ていく。
俺は、真奈と2人っきりにされてしまった。
店内の通路へ出た健二は、部屋から少し離れた場所で壁にもたれて、ハァッとため息をつく。
理子はそっぽを向く彼を眺めて、下唇を噛み、まぶたを下げた。
「別れてもいいよ」
数秒して、ポツリとささやかれた言葉。
フロントでもらったガムを噛んでいた健二は、口の動きを止めて、その台詞を口にした彼女に目を向けた。