彰斗は、分厚いファイルを持って、正面の席へ座る。


年に四回だけ、社長進行の会議があるらしい。


それだけに、みんな気合いが入った顔をしている。


「あっ、そうだ由依奈」


突然、美加が耳打ちをしてきた。


「今朝、社長とすれ違ったんだけど、あの香水の匂いがしなかったのよ。もうつけてないのかなぁ」


「そうなの?」


「あの匂いが、“社長”って感じがして良かったのにね」


「うん…」


知ってる。


だって今朝は、つけて行かなかったもん。



それって信じていいって事だよね?


風香さんらしき人を、見かけたのは気になるけど、単に再会しただけかもしれないし。


そう自分に言い聞かせて、あたしは首に掛かったネックレスを触った。


貰った指輪を掛けたネックレス。


誰にも気付かれないように、シャツの下に隠しているのは彰斗も一緒で。


お揃いの物を身につける
って、こんなに嬉しいものなんだ…。