今日の車からは、音楽は聞こえてこない。
オーディオを切っているからだけど。
それだけ、お互いの声だけはハッキリ聞こえるって事。
彰斗はいろんなことを計算してるなって、しみじみ思う。
きっとあの夜、初めて体を重ねたあの夜も、全部計算だったんじゃないの?
お土産を忘れたのも、口紅をつけさせたのも、全部全部…。
「由依奈、婚約の記事読んだ?」
真っ直ぐ前を向いて車を走らせたまま、彰斗がゆっくりと聞いてきた。
「読んだ。全部…」
「そうか」
小さくため息をつき、ハンドルを切りながら、山へと入っていく。
「どこ行くの?」
まさか、あたし抹消されるとか?
山奥に捨てられるとか!?
なんて、こんな時に何考えてるのよ。
そんな訳ないじゃない。
「この上、夜景がキレイなんだ。この前、全然見られなかっただろ?」
「う、うん。でも、あたし、そんな気分じゃないの」
のんきに、夜景を見れる気持ちになれない。
「人もいないし、ゆっくり出来るから」
そう言うと、彰斗はアクセルを踏み込んだ。

