『3組の橋本ももこが、笠井のこと好きなんやって』
それは、クラスの女友達からの忠告。
図々しくて、自信過剰な男…。
そう思っていたはずなのに、そのとき…胸の中にモヤモヤとした感情が広がった。
あんな奴、別に…何とも思ってなんかいない。
そう思えば思う程、胸が苦しくなる。
彼を目で追う回数も増え、話しかけられると…真っ直ぐな瞳や低い声に緊張するようにもなっていた。

『なぁ、ほんまに彼女になってや』
初夏を迎えた頃には、もう…心は彼に奪われていた。
だから、体育館裏の水飲み場で彼に告白されたとき、おとなしく頷いた。


…彼と付き合ってから、沢山の思い出ができた。
春夏秋冬を繰り返す中で、愛情は深くなっていく。
彼と仲の良い女の子に嫉妬して、可愛くない態度ばかり取ってきた。
つまらないことで大喧嘩になり、別れそうにもなった。
でもその度に、健太郎は、私が特別なことを教えてくれる。
笑ったり泣いたりの繰り返しに、無駄なものなんか…1つもなくて。
隣には、いつも健太郎がいる。
空気のようで、それが当たり前だった。