「早く抜けて、会いに来るから!」
健太郎は、必死に謝り続けた。
こんなふうに言われたら、許すしかないやんか。
「…わかったよ」
沙代はふてくされた顔で、小さく答えた。
「ほんまに…ごめん」
彼は顔を上げて、表情を崩していく。
「その代わり、日が替わる前に会いに来てや!」
沙代はムスッとしたまま、目を逸らした。
「うん!絶対、守るから!」
健太郎はクシャッとした笑顔を見せて、喜んでいる。
…嬉しそうにしやがって。
断りにくいんじゃなくて、どうせ…走りたいんやろ。
沙代は、そんな彼に惚れてしまった自分に、ため息をつく。
悔しいけど、嫌いになられへん。
なんやかんや言うても、一応…大事にされてるし。
健太郎なしの生活なんか…考えられへん。
「沙代、好きやで」
健太郎は無邪気に、抱きついてくる。
…こんな笑顔を、ほかの女は知らない。
この温もりも、この唇も、全部…あたしだけのもの。
沙代は、彼の体温に包まれながら、幸せを噛みしめていた。