荒れゆく波に流されるかのように、毎日が過ぎていく。
受験という大きなテーマを抱えて、周囲は走り出している。
だが、沙代の心はあの日に置いたまま。
季節は、めまぐるしい速さで変わっていく。
「…井上」
ある放課後、進路相談のため、廊下で順番を待つ沙代に、1人の男子が近づいてくる。
その声に、沙代はうつむいていた顔を上げた。
「…広くん」
目に映ったのは、健太郎の小学生時代からの友人で、明美が片思いをしている相手…広也だった。
「進路相談?高校、どこにしたん?」
広也は真剣な表情を少し崩して、柔らかく微笑んでくる。
「…相羽」
沙代は手にしていたプリントを眺め、ポツリと答えた。
その言葉を耳にした広也は、複雑な顔をする。
そして、何か言いたげに口を開いたが、唇を噛んで…目を逸らす。
「…そっか」
広也は、彼女を見ることが出来なかった。
すると、その空気を破るかのように教室のドアが開き、1人の生徒が出てきた。
「…あたしの番やわ」
沙代は明るく振る舞いながら、教室の中へ入っていく。
広也は、手をひらひらと振り返した。