「…沙代」
「わかってる!!…わかってるよ」
荒れ狂う沙代に追いついた由加は、複雑な表情で声をかけてくる。
沙代は、彼女の言葉を跳ね返すかのように、大声を出す。
「…はい、鞄」
後から駆け寄ってくる明美は、息を切らしながら鞄を手渡してくる。
「…会いたい」
沙代は両手で顔を隠して、涙を流した。
由加は黙って、震える彼女の肩を眺める。
明美はまぶたを強く閉じて、歯を食いしばる。
「沙代、ごめん。…あたし、何もしてあげられへん」
明美のまつげを濡らしていた粒が、ぽたりと一粒…地面へ落ちていく。
沙代はその場に座り込み、声を出して泣き崩れた。
赤く染まった空の下、人影のない…静かな道に、沙代の泣き叫ぶ声が響きわたる。
2人は、何も出来ない無力さを悔しく思った。
会いたいと叫んでも、健太郎は…かけつけてもくれない。
もう…会われへん。