空(第2章まで公開)

「沙代、帰ろぉ」
靴箱のところで、明美と由加が声をかけてくる。
2人は、沙代を1人にしないように気遣ってくれている。
沙代は、胸が苦しくなった。
2人は、立ち止まる沙代の瞳を、目を細めて見守る。
すると、そのとき、3人の空気を破るかのような激しいエンジンの音が聞こえてくる。
沙代たちは、校門の外に目を向けた。
…走っているのは、1つ年下の男の子たち。
「…広也らは、走るの辞めてん。健ちゃんの命…無駄にせぇへんように」
彼らを眺めながら、明美がポツリとつぶやく。
沙代は、にぎやかに走る彼らに、健太郎の姿を重ねて見ていた。

『なぁ、走るのって楽しいん?』
健太郎と付き合い始めた頃、何気なく聞いた質問。
『ん?…まぁ、なんか走ってたらスッキリするし。最初は興味っていうか…やんちゃしたいってだけやったけど、今はなんか…走るのが好きやなぁ』
そう言って、健太郎は無邪気に笑っていた。
金縛りにかかったかのように、その笑顔に見とれていた自分を思い出す。
…走っているときの、生き生きとした表情がすごく好きやった。
3人は言葉を失い、静かに校門の前で彼らを見つめていた。