母親の胸の中で、沙代は感情を全て…表に出した。

その夜、沙代は部屋で携帯を眺めていた。
健太郎がくれた文字を、1つ1つ…黙って読み返していく。
そして、テーブルの上に目を向けた。
『これ、あの子がつけてた…ネックレス。…見たら、沙代ちゃんの名前…書いてあったから』
通夜の日、やつれた顔をした彼の母親に、そっと手渡されたもの。
それは、つい最近、彼に渡したクリスマスプレゼントだった。
沙代は、それを自分の首にかける。
…はにかむかのような満面の笑み。
ネックレスを両手に包んで、喜んでいた彼を思い出す。
沙代の瞳に、枯れたはずの涙が…再び浮かびあがる。
…あったかい健太郎の体温、金色の柔らかい髪の毛、長く…力強い指。
広い背中に、優しいキス。
甘く見つめてくる真剣な瞳や、クシャッと崩した…笑顔。
…健太郎の全部を愛してた。
大好きやった。
沙代は、手当てされた手首を見下ろした。
全部…血がなくなれば、死ねると思った。
「健太郎、あたし…あんたのそばに」
なんで死んだん?
「…逝くこともできへん」
なんで死んだんよ…。