彼の父親は、泣き崩れる母親を抱えて、病院の手続きに向かっていく。
沙代は、宙に浮いているかのような自分の体を、廊下にある長椅子に預けた。
「沙代っ!!」
向こうから呼びかけてくる声。
顔を上げると、血相を変えて駆けつけてくる両親の姿が見える。
「…健ちゃんは!?」
そばに来るなり、母親は大きな声で問いかけてくる。
沙代は何も言えず、黙って母親の顔を眺めていた。
…パシッ!
突然、頬に振りかざされた…手のひら。
沙代は、父親に耳元を叩かれた。
「お父さんっ!」
母親は慌てて、父親の腕に手を伸ばす。
「…帰るぞっ」
父親はそう言って、沙代の腕を強く引っ張りだす。
沙代は父親の行動に腹を立てて、その手を振り払い、もう1度…椅子に座った。
「早く立てぇ!」
父親は再度、腕を掴む。
「は…なしてよっ!!……おかしいんちゃう?健太郎が…健太郎が死んだのに!!」
沙代は暴れるようにして、父親から逃れる。
そして、おかしくなったかのように大声で叫んだ。
父親は血走った目で、そんな沙代を黙って…睨みつける。