「…むかつく」
沙代は彼に背を向けて、充血した瞳を濡らしていく。
…毎回、喧嘩の原因は女やし。
彼女は声をおさえて、涙を流した。
「ごめんって」
健太郎は、小刻みに震える肩を眺め、もう一度…彼女を強く抱きしめる。
「なんで、あんたなんか…好きになったんやろ」
「…ごめん」
体温を感じることで、怒りの粒は大きなものへと変化していく。
嫉妬深いあたしも…悪いんかもしれへん。
でも、ほかの女と話してほしくない。
あたしだけを見ていてほしい。
そう思ってしまうんやから、しゃあないやん。
彼女のあたしがいても、そんなこと関係なく、健太郎を好きでいる女は多い。
それが、健太郎に対しての…唯一の不満。
沙代は、ぎゅっと抱きしめてくる彼を、静かに見上げた。
「俺が好きなんは、お前だけやから…」
健太郎はかすれた声で、優しくささやいてくる。
沙代は唇を軽く噛み、彼のそばへ近寄った。
情けないけど、健太郎には勝たれへん。
やっぱり、この匂い…落ちつく。
彼の服に涙を吸い取られ、沙代の瞳は…次第に乾き始めていく。