家までの帰り道、曇り空は真っ黒に染まっていく。
行きと同じように、沙代は彼の腰に腕を回して、背中に頭を預けていた。
「…大好き」
沙代は、高ぶる彼への想いを言葉にした。
「え?」
エンジンの音にもみ消され、健太郎は振り返る。
「だから、大好…」
沙代はクスクスと微笑んで、もう1度…言い直そうとした。
その瞬間、振り返りながら運転をする彼に、強い光が覆い被ってくる。
突然の…出来事。
大きな音が耳の奥で響き、風景は速く回りすぎて…はっきりと見えない。
強い力に圧迫され、体を動かす余地もなかった。
「痛…」
急な衝撃に何が何だか理解できず、沙代は地面に打ちつけた頭へ手を当てる。
そして、目に映る光景につばを飲む。
バンパーが潰れた乗用車が、道路を塞ぐかのようにガードレールへ突っ込んでいる。
そのすぐそばでは、健太郎が倒れていた。
彼は頭から血を流し、傷だらけの体になっている。
「健…太郎?」
沙代は右ひざの痛みに耐えながら、彼の元へ駆けつける。
そして、彼の顔についた黒い液体に、恐る恐る…手を伸ばした。
「え…嘘や。……なぁ、え…健太郎?」
何度…呼びかけても、彼は目を覚まさない。
沙代は、激痛の中、彼の体を強く揺すっていく。
だが、健太郎の目は…開かない。