「…俺は受験せぇへんし、勉強してる沙代のこと偉いなぁって思ってる。だからな、俺も頑張って待つから、沙代も頑張れよ」
健太郎は、長い髪を優しく撫でながら…ささやいた。
普段の彼からは想像もつかない…真剣な瞳。
「受験終わったら、どこに行きたいか考えとけよ!」
彼はニンマリと笑みをこぼして、沙代の頬をつねる。
「…うん。浮気すんなよ!」
沙代は、寂しい気持ちを押し殺した。
「おう!…無理はすんなよ」
健太郎はそう言って立ち上がり、沙代に手を差し伸べる。
2人は、重い足を…ゆっくりと前に進めていく。
「…どこにしようっかな」
沙代は、寂しさを紛らわすかのように、無理やり楽しいことを考える。
「んー…ディズニーランド?」
「え、東京まで行くん?」
「じゃあ、砂漠」
「なんで砂漠よっ」
2人は、駐車場までの距離を、くだらない会話で埋めていた。
原付にまたがり、健太郎はエンジンをかけている。
…乗りたくない。
沙代は切ない目で、彼を見つめた。
「おいで」
視線に気がついた彼は、沙代の頭に手を伸ばして…キスをした。