「めちゃくちゃやん、服」
そう言って、沙代は彼の服を整えていく。
「服とか、どうでもええって!会えるなんて、思ってなかったし!!」
帰宅した主人に駆けつける子犬のように、健太郎は満足げに笑いかけてくる。
「どこ行く?どこ行く?」
嬉しそうに、体を揺らしながら問いかけてくる彼に、沙代の胸はきゅんと苦しくなった。
「うーんとね…。あ、海!」
「えぇ!?真冬やのに海ぃ?」
後ろに座る沙代の提案に、健太郎は不満そうな顔をする。
「いいの!海がいい!」
沙代は、彼の意見などお構いなしに言い返していく。
「ワガママやなぁ。…しゃあない、“めっちゃ寒い海”に行こっか」
健太郎は嫌みっぽくつぶやいて、面倒くさそうにエンジンをかけた。
普段は、彼にしがみついたりはしない沙代。
だが、今日は彼の腰に両腕を回していく。
久しぶりに会えた嬉しさで、口元が緩んでくる。
沙代は、それを隠すかのように、彼の背中に顔を埋めた。