「沙代ちゃん、お父さん…ゴルフに行ったから、久々に息抜きしてきたら?」
娘に対して本当に甘い母親は、こっそり部屋のドアを開けて、ささやきかけてくる。
「お父さん、多分…今日は飲んでくるし。健ちゃんに会っといでよ」
ここ最近、缶詰めになっていた娘を思いやり、母親は外出を許可してくれた。
…会社の管理職をしている父親は、絵に描いたかのような頑固親父。
もちろん、受験が終わるまで…外に出してもらえない。
ましてや、“不良不良”と毛嫌いしている健太郎と会うことなど、絶対に許すわけがない。
だからこそ、思わぬ許可に、沙代は飛び跳ねて喜んだ。
「健太郎!今から会おう!」
急いで健太郎に電話をし、用意を簡単にして、家を飛び出す沙代。
「沙代っ」
健太郎もまた、久々に会えることに感激し、満面の笑みで駆けつけてくる。
原付に乗って…向かってくる彼は、急いで来たと言わんばかりの身なりをしていた。
服はしわでクチャクチャ、髪の毛なんか…寝癖のまま。
だが、沙代からすると、そんな格好がたまらなく愛おしかった。