そう思い、聖は玄関で、輝緒にたわいもない話を振っていく。
「ほんまか。あ、舞の靴あるやん。もう来てたんや」
聖の気遣いもあっけなく、輝緒は足早にリビングへと歩き出した。
「ごめんな、待たせて! 何か、食いに行く?」
勢いよくリビングへ駆けつけ、舞に声をかける輝緒。
その後ろで、聖はぎこちなく、頭をポリポリとかいていた。
ところが、目に入ってきたのは、先ほどの涙など…欠片もない姿。
聖は、彼女の満面の笑みに目を奪われた。
泣いていたことを、輝緒に気づかれぬよう、必死に明るく振る舞う彼女。
そのときからもう、聖の中では、舞は“うざい女”という印象ではなくなっていたのだった。