今の幹にとって、幸せをつかんだ美衣子からの励ましは、うっとうしいもの以外の何ものでもなかった。
「…じゃあ、何も言わんわ」
ムッとした表情で、美衣子は口をとがらせた。
店内は、活気に満ちて賑わっている。
だが、2人のテーブルだけは静かな空気が流れていた。

「あ、幹! ちょうど良かった…本田さんから電話!」
家に帰ると、母親が受話器を向けてくる。
「…上で取る」
そう言って、幹は無愛想に階段を上がっていく。