「…帰ろうや」
かすかに見える拓馬は、今まで見たこともない真剣な表情だった。
そして周りに冷やかされる中、2人は帰っていった。
「…アイツって、武内のこと好きやったんやなぁ!」
彼らが帰った後も、興奮がおさまらない生徒たちは、あちこちで声をあげている。
…ただ情けなく、幹と雪奈は立ち尽くしていた。
自分たちが拓馬を想うように、彼も想いを募らせる相手がいたということに、初めて気づいた瞬間。
…真夏を知らせるセミの声の中、初めて見た彼の恋する顔だけが、2人の瞳に焼きついていた。