「幹? 何かあったん? ……幹?」
ドアの向こうでは、後を追ってきた母親が心配そうな声をかけてくる。
「何もない!」
幹は、今にも泣きだしそうな声で、ドアの外に怒鳴り散らした。
そして、部屋にある子機の電話を手に取る。
親指が押したのは、美衣子の家の番号。
『…もしもし?』
聞き慣れた穏やかな声。
それを耳にした瞬間、こらえ続けてきた涙は…一気にあふれ出す。
「…美…衣子?」
幹は、声を必死に振り絞った。