成海さんが席に着いた。
運転手席側の前から3番目。
毎朝あの男が座っている席。
本人は何も言わなくても、無意識のうちに彼を追っている部分があるのかもしれない。
俺は顔を見たことはないけれど、こんなにも彼女を惹きつけるあの男は、一体どういう人なんだろう…
「わたし華咲海岸に行くの初めてなんだ。すっごく楽しみ」
隣に座る成海さんが、俺に向かって微笑みながら言ってきた。
…何を考えていたんだ、俺は。
今は成海さんとの時間を楽しむことが大事なのに…
「冬に海に行きたいなんて、珍しいね」
雑念を払って成海さんの言葉に応えた。
「あっ…ごめんね。冬の海なんて寒いだけだよね…」
「ううん、成海さんとなら何でも楽しいと思うよ」
「…あ…ありがとう…」
言葉ごとにコロコロと表情を変える成海さん。
それを見て、俺の気持ちがどんどん高まる。
肩が当たりそうなくらいの距離に、ずっと想っていた女の子がいる。
いつもと違う、2人の時間。
もっと長く続けばいいと思うのが、俺だけじゃなかったらいいな…


