「それは…ないや。彼女には好きな子がいるんだ」



俺の声のトーンが落ちた。



彼女の好きな人、それは俺ではない。



俺と話すのが楽しいなんて、本気で言ってくれているとしたらそれはただ友達としての話。



見つめるだけで胸が高鳴るのは、あの男の姿だけ。



…なのに何1人で盛り上がってるんだ、俺は…




「そうか…。まぁ兄ちゃん、そう気を落とすなや」


「……」



慰めてくれるおじさんの言葉に、頷くこともできない。



「好きな子なんて、所詮好きな子だ。
気にすることない、兄ちゃんは兄ちゃんの恋をすればいいんだよ」



なんだか感慨深いおじさんの言葉。



「…ま、若い頃はいっぱい悩めばいいさ」



青信号でバスを走らせながらのおじさんの言葉が、まるで彼の人生を物語っているかのように聞こえた。



「はは、そうだね。…ありがとう」



目の前の大きな背中に向かって、小さく呟く。



その言葉に返事をすることはなく、おじさんはいつも通りの時間に俺を学校まで運んでくれた。