ほとんどが眠る今は、全ての音をシイラの耳へ繊細に伝える。

夜明け前の静かなこの時間はダイドンが好きな物の1つだった。

今も、彼には聞こえているのだろうか。

形は変わっても、彼は今、目の前に居るのに。

彼女にとって、今この目に映る物、耳に入る物、手で触れる物全てがダイドンとの思い出に溢れていた。

頭では理解している、これはどうやっても変えられない、もう起こってしまった事実なのだ。

感情に負けそうだった理性を持ち直すと、ゆっくりと息を吐いた。

掌に感じるダイドンに背中を押してもらったようだ、そう心の中で呟いて微笑んだ。

「感じるよ、ダイドン。」

手の中の土にも心の中にも、これが彼の言っていた全てに存在するという意味だとしたら。

彼女には見えているのかもしれない。

彼女の目にはダイドンがそこに居て笑っている姿が映っているのかもしれない。

「ありがとう。」