「や、やめてよ!!」

あかねは必死に抵抗した。

肩!肩!!肩触られた!!
この男に!!

すると、男性は眉間にしわを寄せて言った。

「なんでよ、俺のこと嫌いなの」
「嫌いとかそういう問題じゃなくて・・・」

「堅苦しいままだと、恋は進まないよ?」
"堅苦しい"。
この言葉が、思いのほか、あかねにずしりと重くのしかかった。
そうなのかもしれない。

私は堅苦しい。


「・・・かなぁ」
「どうした?喋んなくなっちゃって」

あかねが精一杯出した声は、あまり男性に届いていなかった。
あかねは、ぽろぽろ涙を流しながら、言った。

「私、堅苦しいのかなぁ・・・。」

ひっく、ひっくと、声をしゃくりあげて泣いた。
ずっとうるさかった男性も、喋らなくなった。

たった二人の田舎町の駅のホームにあかねの鳴き声が響いていた。

「・・・結紀」

「・・・え」

「俺の名前。元橋結紀。よろしく」

・・・なんでこのタイミングで自己紹介なの。
やっぱり、苦手かもしれない、この人。

「泣きやめ泣きやめ!!泣いたって何も解決しねぇぞ!」

「う・・・」

「とりあえず、駅を出て、どこかでお茶をしよう!俺のどかわいた!!あんたもだろ、泣いたから」
別に、泣いたからって体の水分がなくなるわけじゃないと思うけど・・・

「そーだ、名前は?」

・・・
正直、まだ信じられなかった。
私のことズバリ"堅苦しい"とかいうし
ちょっと"チャラ"かったから。

でも・・・
頼ってみてもいいかもしれないと思った。
堅苦しくならないで、素直になってみようって。

もしかしたら、こんな田舎町の駅のホームで、恋が始まるかもしれない。

この、いい加減な・・・
元橋結紀と。

「・・・あかね」
「あかねちゃん?」
「桜井・・・あかね」

は、恥ずかしい・・・
なんで名前を言うだけで恥ずかしいんだろう。
さっきあれだけ泣いたから?
確かに、今思えば私めちゃくちゃ恥ずかしい人じゃん・・・

あそうだ、と結紀は携帯をとりだした。

「携帯かして」
「え、なんで」
「せっきがいせーーん」

赤外線、ね。
結紀は慣れた手つきで携帯を操作し、赤外線通信をした。

「なんかあったら、すぐ連絡して、何時でも駆けつけるから。」

私より少し年上の彼は、かなり子供っぽいのに
かなり恋愛達者だった。

こうして、私の長い長い恋愛が始まった。