アイドルな王子様

「月杏! ちょっと来いよ、ウニがいる!」


 不意に呼び捨ての名を呼ばれ、心臓がどくんと跳ねる。

 やだ。

 彼に月杏って呼ばれただけで、頬が熱くなる。

 今はほど好く冷たい北国の海風がありがたい。




「ど、どこ?」


 ごつごつと張り出したり引っ込んだりした岩を、びくびくしながらもなんとか聖夜さんに辿り着いた。


「これ。へばりついてる」

 指差す海中を覗くと、確かに丸いとげとげした物体が、足元のすぐ下の岩盤に張り付いている。


「これがウニなの?」

「そ。刺は短いけど。エゾバフンウニ?だったかな」

「食べられるの?」

「勿論。食べてみる?」

「えっ。平気?」

「漁は権利制だろうけど、観光客が一個戴くくらい許されないかな?」

「…どうでしょう?」

「よし、試してみよ」


 云うや否や、彼はおもむろにじゃばっと海中に右手を突っ込んだ。


 結構、恐いもの知らず?




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