「出すよ、お金。必要な分。ついでに今夜の宿も」

「えっ」

「あっ変な意味じゃないよ。予約してある宿は行きつけなんだ。部屋が空いていれば別に借りるけど、空いてなければ宿のおかみさんの部屋にでも泊まれるように頼んでみてもいい」

「…ありがとうございます。あの、なんてお礼申し上げていいか」

「いや、こーゆーときはお互い様だから」

「東京戻ったら私すぐにお返しします! 勿論、今夜の宿泊代も」

「そんな気にしないでも…」

「とんでもないわ! 御礼だってきちんとさせて頂きます」

 思わず身を乗り出して云うと、彼はくくっと笑い出した。

「若そうなのにカタイね」

「わたしは…あっ」


 私は非常識にも自分が名乗りもしないでお世話になっていることにようやく気付き、慌てて続けた。


「あの、翠川 月杏と申します。つきこの漢字は、月曜日の杏。東京で会社員を…辞めたばかりの24歳です」

「へえ…綺麗な名前だね。凄く似合ってる」


 そう云って首を傾げた彼の眼が素敵に煌めいて、私はどきっとする。

 やだ、きっと顔真っ赤だわ。


「俺は、一色 聖夜。クリスマスイヴ生まれだからセイヤなんだ」

「聖なる夜?」

「そう。でも先祖代々浄土真宗」

「ぷっ」

「笑ったな」

「えっ、名前が可笑しくて笑ったんじゃないですよ。聖夜さん、ってお似合いです」

「いーよ、もう。トシは28で、東京の…フリーター…みたいなもんかな」

「みたいなもん?」

「んー…そんなとこ」


 28歳でフリーターかあ。

 恰好はいかにもそんな感じだしね。

 『甲斐性のある運命の相手』には当て嵌まらないけれど、気さくで凄くいい人だな…。

 ちょっとコキタナイけど美形だしね。


 それにしても、無職とフリーターのこのコンビって一体…?




 フリーターさんからお金をお借りするのもどんなもんかしらね??





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