「当日になってまで、まだ練習してるの?」


近づいていって、イヤホンをそっと外してから声をかけた。

よーっぽど入り込んでいたのか、体が跳ねるほど驚いて、覗き込んだ私を、まぬけな顔でみつめてる。


「ふ、正装も台無し!」


思わず笑いをこぼした私の方を向いて、
少し恥ずかしそうに、眉を寄せる "その人"。


「…心陽(こはる)」


ー霞 緒斗(かすみ おと)

とても、大切なひと。


室内でも色素の薄さがわかるような、茶色がかったやわらかな質感の髪。

教師だからと、襟足は短く整えられているけれど。

今日が "特別な日" だからか、いつもは少し目にかかる前髪も、スタイリング剤であげていて。

邪魔されずにみえるキレイな二重は、スッとした他のパーツを引き立ている。


…うん、いつもより、5割増しくらいは男らしいのに。決まらないね。


「そんな心陽は、余裕だよな」


ーそんなところが、どうしようもなく好きなのだけど。