春の穏やかな日差しが、中庭の木々やプランターの花々に降り注ぐ中、


「……っ」


こわれそうな音が、こわれた音。

そして、なおせない音まで、聞いてしまった。



聞けずにいられたら、幸せなままでいられたかもしれないのに。

何も知らない顔をして、幸せなままでいようなんていう選択は、私にはできなかった。





「…先生」



ポロン、と。

外れたままの鍵盤の音。



私の声に振り向いた先生に小さく微笑んで、後ろ手にドアを閉める。

ガチャっと響く音が、これからを示すようで、ヤケに色っぽい。


「また弾いてるの?ソレ」


先生越しにみえる濃紺のカーテン。
その先には、中庭が広がっているはずで。


"秘密" を隠したいのか、
みつけてほしいのか、


僅かに開けられた窓から侵入してきた風が、先生の髪をゆらす。


「…なんとなくだよ」


…地毛かどうかは知らない。
けれど、教師のクセに色素の薄い髪を。