「そうだな。
早く言って安心させたい」
ボソッと呟いた翡翠。
普段より小さい声だったけど、わたしの耳にはしっかりと入って来た。
それに……
すごく幸せそうな、嬉しそうな顔をしてる………
そんなに大切なの………?結婚相手のこと………
そうなら………
なんでここにいるの……?
早く…早く……
「早く行ってよ!!」
「ああ、そうする」
少し笑みを含んだ声で翡翠は言い、クルリっと体の向きを変え、扉の方へ歩きだした。
その姿から目を背けたくて、わたしも翡翠に背を向けて俯いた。
翡翠…………
ひすい………
―――ぱたん
扉の閉まる音が静かな部屋に響いた。
「っ…………すい……っく…ひ、すい………い、行かない、で………」
もう今更、名前を呼んでも、引き止めても遅い。
もう、翡翠の耳には届かない。
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