「断わる! 絶対に駄目だ。それくらいなら、俺が……」

「――乙矢殿?」


口の中がカラカラだ。唾でどうにか湿らせて、乙矢は言葉を続けた。


「俺が、神剣を抜く。一矢が現れるまで、俺が弓月殿を守るよ。だから……絶対に抜くな」


真っ直ぐに弓月の瞳を見つめて宣言した。

弓月もそんな乙矢から目が離せない。二人はそのまま吸い寄せられそうになり……だが、寸での所で留まる。


「私を……守ってくださるのですか?」


弓月は、慌てて乙矢に背を向けた。その仕草も声音も、急に娘らしくなる。


「……力の及ぶ限り」

「人を斬ることになっても?」

「それは。人を殺めたくはないけど、それ以上に、弓月殿に死んで欲しくない」

「乙矢殿――」


ほんの僅か、無造作に伸びた雑草を踏み締める音がした。

それは、風や野兎の気配とは明らかに違ったが、高揚する二人の耳に、届くことはなかった。