弟矢 ―四神剣伝説―

乙矢が目を開けた時、最初に見えたのは壊れかけた天井から覗く星空だった。


「地獄にしちゃ……極上の星空だな」


自分の声とは思えないほど、低くしわがれていた。独り言のつもりで呟いた乙矢に、帰ってきた言葉は、


「残念ながら、あなたはまだ、生き地獄から逃れられぬようですよ」


そう答えたのは凪だった。


「あんたは……凪先生だっけ?」


意識がどこかあやふやだ。確か、昨日の夕刻、宿場町で地回りの連中に袋叩きにされたはずだった。その後、お六から、乙矢の兄のことを訊ねて浪人が来たと聞かされ……。


「おゆきは? あいつ、どうなった……くっ」


おゆきのことを思い出し、体を起こそうとした瞬間、右腕に激痛が走り、眩暈がした。


「ようやく熱が下がったばかりなのです。無理をしてはいけませんよ。ああ、その右腕ですが、少しでも毒を抜くため、血管を切らせて頂きました。神経に傷は付けておりませぬので、ご安心を」

「俺はいいよ。別に、腕の一本や二本。おゆきは、逃がしてくれたんだよな。まさか、あの猪野郎が斬ったりしてないよなっ!?」


凪は、その問いに沈黙で返した。