「ほおぉ。腰抜けの割に、そっちの方面はやけに手が早いんだな」

「妬むな新蔵。先を越されて悔しいのはわかるが、お前にも機会はある」

「ち、違います! そんな意味じゃ……」


冷やかし半分の新蔵や正三に比べ、


「十八は男になるのに決して早い歳ではない。むしろ、血統を絶やさぬために喜ばしいことだが。仮にも爾志家の嫡子たるもの、宿場女郎相手では、お父上も嘆かれるであろうな」


長瀬はどうやら、真剣に怒っているようだ。


「待てよ、お前ら。勝手なこと言うなよ。俺とおゆきは別に、そんな……」


腕に自信もないのに、体に流れる勇者の血ゆえ、いつ殺されるかもわからなかった乙矢だ。誇りを守って逃げることなど不可能だった。

気弱で口が軽く、金や女の誘惑に転びやすい男を演じる必要があった。おゆきとの関係も、そんな流れの一つに過ぎない。

しかし、おゆきはそうは思わなかったらしく……。


「別になんだい? 筆おろしをしてやって、女の泣かせ方を教えてやったのは、このあたしじゃないか!」

「お、おゆき……勘弁してくれよ」


乙矢はタジタジだ。怖くて弓月の顔を見ることができない。いや、彼女は乙矢の許婚ではないのだから、恐れる必要などないのだが……。