「失礼ですが、乙矢どのに比べ、一矢どのの名は蚩尤軍にもよく通っております。彼らは当座、我らを見つけてもすぐには攻めて来ないでしょう。万に一つも噂が真実なれば、神剣の持ち主と戦うことになるのですから」

「しかし、乙矢も言った通り、次は神剣で鬼を作り上げ、奴らは襲ってくるんじゃありませんか? そうなったら」

「そうだよ、凪先生! こいつじゃ、あの武藤なんたらって奴だって倒せない。はったりじゃ蚩尤軍には勝てませんよ!」


我慢できず、弥太吉も口を挟んだ。しかし、そんな逃げ腰の二人に、正三は痛烈な一言を浴びせる。


「新蔵、弥太。我らの目的はなんだ? 逃げることか? それとも生き延びることか?」

「それは……」


明らかに、逃げ道ばかり模索している自身に気付き、新蔵は赤面して閉口した。

凪は落ち込む弥太吉の肩に手を添えながら、


「勇者と呼ばれる一矢どのが現れたとなれば、皆実の宗次朗どのが無事であれば合流されようとするでしょう。それに、呼応するように、蚩尤軍に反旗を翻す者も出てくるやも知れません。そして何より、本物の一矢どのも……」

「一矢殿が現れれば、活路は拓ける」
 

弓月の言葉に、乙矢は胸の奥が激しく痛んだ。