「拙者、西国の蚩尤軍を預かる、武藤小五郎である。そのほう、遊馬弓月だな。そちが背負う神剣をこちらに渡せ。なら、命ばかりは助けてやろう」
 
「弓月どの、待ち伏せとは思えませぬが、まともな方法で切り抜けることは難しいかと」


凪がそっと耳打ちする。


「わかっている。しかし」


宿場に閉じ込められた長瀬たちも気になるが、まずは目の前の敵をどうにかせねばならない。

その時、


「お前が、密告したのかっ? そうなんだろっ!」


不意に、弥太吉が乙矢に掴み下がった。乙矢は声もなく、ただ、首を左右に振るのみだ。


「おおっ、おぬし爾志乙矢ではないか? 今回もよく役に立ってくれたな。おい、奴は殺すな。その約束になっておる」

「……!」


小憎らしいほど、堂に入った茶番だ。

しかし、乙矢には何も言い返せない。武藤を睨み返すことすらできないのだ。

そんな乙矢に飛び掛かろうとする弥太吉を、凪が横から片手で取り押さえていた。



凪の推測通り、武藤たちは待ち伏せというわけはなかった。狩野から援軍を断わられ、仕方なく明け方に出立したところ、宿場の戦闘を知ったのだ。主力軍はいまだ、山中を走り回っている。