「もうひと晩泊まっても良かったのだ。到着は今日以降だと、連絡をやっただけなのに……」

「そんなに女の肌が恋しけりゃ、お前だけ泊まってくりゃいいだろ」

「違うと言っとるだろうが!」


乙矢と新蔵のやり取りは、相変わらず気の抜けたものだった。

だが、凪を迎えに吉備までやって来た新蔵は、東国に戻ってすぐ、今度は乙矢を迎えに来たのである。

乙矢に逢いたがる弓月のため、と言えば聞こえは良いが……。


全てを返上した乙矢が望んだのは、一矢を爾志家の墓に埋葬することだけだった。母の最期の願いを乙矢は叶えられなかったが……だからと言って、乙矢まで来いと言う母ではない。

乙矢は正三から、失敗が過ちではないと教わった。失敗から何も学ばず、後悔のみに終始することが過ちなのだ、と。


「だが、お前――本気なのか?」

「何が?」

「四神剣を揃えたら、その守護を返上する。そう言ったのであろう?」