まさに鎬(しのぎ)を削るようにして、刀身が触れるかどうかのギリギリまで下がり、双方間合いを取る。

人を斬らずとも、『朱雀』はざくろの如く血色に染まり艶めいていた。それとは対照的に、『白虎』の姿は常に無垢な乙女のようだ。


燃える『朱雀』を冷ますように、『白虎』から放たれる光は冷気を帯びる。


相対するふたりはひと言も発せず、宗次朗の額には粒のような汗が浮かんだ。


この時になってようやく、宗次朗は自分の相手がただびとではないことを悟る。他の誰を相手にした時とも違う。

更には――乙矢の視線に憎悪もなければ、哀れみも含まれてはいなかった。

家族を皆殺しにされ、憎んでいるはずだ。あるいは、弓月から感じたように『朱雀の主』でありながら、と同情を寄せるはずだと思っていた。


それが、乙矢から感じる気配は……何もない。


我が身が断然有利だと思っていた。

しかし、宗次朗は乙矢の内に秘めた光に気圧されつつある。


そう……声を出さないのではなく“出せない”。長引けば不利なのは乙矢のほうに違いない。にもかかわらず、早く決着をつけねば、と動いたのは宗次朗のほうであった。


同じ間合いを維持したまま、摺り足でふたりは円を描くように動く。徐々に、宗次朗は腕を上げ、左上段に『朱雀』を構えた。